日本巫女史/第一篇/第七章

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日本巫女史

第一篇 固有呪法時代

第七章 精神文化に於ける巫女の職務[編集]

巫女の職務を説くに当り、私はそれを精神文化と物質文化の二つに区分して記述することとした。勿論、此の区分は、自分ながらも、決して学術的であると考えているものではない。全体、私が改めて言うまでもなく、巫女の職務といえば、その悉くが信仰に基調を置いているのであるから、精神文化を離れた物質文化などの在りよう筈は無いのであるが、併し同じ信仰に根ざしているもののうちでも、その間には直接的のものがあり、間接的のものがあるように、多少の相違のあることは、又否定することの出来ぬ事実である。神その者としての巫女と、御陣女臈としての巫女とは、如何にするも、その間に職務の相違あるを認めなければならず、更に、予言者として巫の女の職務と、収税者としての巫女の職務とは、その対象においても、態度においても、径庭のあることを没する訳には往かぬのである。それに、斯うして二つに区分する事が、読んでもらうにも会得し易く、且つ記すにも便宜があると信じたので、非学術的であるとは知りながらも、試みて見たのである。而して茲に、精神文化とは、巫女の職務のうちで、信仰と文学と芸術とに、特に交渉の深いものを抽出したのである。

  • 第一節 神その者としての巫女
    巫女の発生はオナリ神—オナリは神その者である—天照神の民俗学的研究は無条件では許されぬ—琉球久高島のノロの神としての生活—折口信夫氏の記事により卑弥呼の再吟味—民族国家の成立と巫女の関係—古代の家族相婚と同胞の位置—妻のことを吾妹子という理由
  • 第二節 司祭者としての巫女
    神々の向上と巫女の退化—巫女は神託を宣べるときだけが神となる—墓前祭と巫女の職務—巫祝をハフリと称する原義—屍体を屠るは巫女の役目—ハフリは屠りに外ならぬ—内地の支解分葬の実例とアイヌ族のウフイ—夢によって知った霊魂の所在—瓢型墳の由来と瓢を魂の容れ物とした俗信—霊魂の神への発達と巫女—人家七世にして神を生ずる事—土佐で行われたタテ食えの神事—我国の紋章の起原とアイヌの神標—人が神となったことを知る民俗—琉球に存したマブイワカシと内地の口寄せ—社前祭と巫女の職務—巫女が軽視されて覡男が重用された過程
  • 第三節 霊媒者としての巫女
    神を招き降ろす方法—日本紀に現われた神功皇后の御事蹟—征韓のために神意を問われた作法—神主の古い意味—神主は直ちに神実である—信州諏訪社の大祝—出雲大社の国造—琴と鈴の音は神の声—神依板は琴の代用品—審神とは後世の巫女の問口—我国最古の神降ろしの呪歌—託宣は韻文的の律語で表現される
  • 第四節 予言者としての巫女
    予言は巫女の重要なる職務—狭義には神が憑ってする予言—広義には他人の歌謡や行動を見聞してする予言—崇神紀に載せた百襲姫命の御事
  • 第五節 文学の母胎としての巫女
    和歌は天にしては下照姫に始まると貫之が言うたが—その下照姫は巫女であった—我国の文学は巫女が開祖—神託は古く歌謡体であった—その例証は沢山に残されている—叙事詩の古いものが一人称である理由—即ち神として宣べたからである—アイヌのユカラでも琉球のオモロでも同じである
  • 第六節 民俗芸術者としての巫女
    舞踊者としての巫女—俳優の始めは鈿女命の所作に始まる—ワザオキの神事上の意義—木偶遣いとしての巫女—肥前風土記に見えた人形—巫女の外法箱に秘めた人形—黥面文身の施術者としての巫女—神の名によって行われた民俗