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室町期の末葉から江戸期を通じて、巫女に関する文献は、決して尠いものでは無い。古文書、寺社関係の記録、地誌、随筆、稗史、小説、川柳等を数えると、私の披閲しただけでも、寧ろ其の多きに驚くほどである。 | |||
併しながら、文献のみで、巫女及びその呪術の総てを知ることは、絶対に出来ない。秘密を尚んでいた彼等は、常に語ることを避けていたし、それに文字に乏しい彼等にあっては、自身で書き残したものなどは、只の一片すらも伝わっていないのである。 | 併しながら、文献のみで、巫女及びその呪術の総てを知ることは、絶対に出来ない。秘密を尚んでいた彼等は、常に語ることを避けていたし、それに文字に乏しい彼等にあっては、自身で書き残したものなどは、只の一片すらも伝わっていないのである。 |
2008年11月6日 (木) 17:46時点における版
第二章 当代に於ける巫女と其の呪法
室町期の末葉から江戸期を通じて、巫女に関する文献は、決して尠いものでは無い。古文書、寺社関係の記録、地誌、随筆、稗史、小説、川柳等を数えると、私の披閲しただけでも、寧ろ其の多きに驚くほどである。
併しながら、文献のみで、巫女及びその呪術の総てを知ることは、絶対に出来ない。秘密を尚んでいた彼等は、常に語ることを避けていたし、それに文字に乏しい彼等にあっては、自身で書き残したものなどは、只の一片すらも伝わっていないのである。
従って、彼等の全体を知るには、各地方に存している民間伝承なり、巫女の実際の生活なりを見聞した報告に由る必要があるので、私は前にも言った如く、全国の未見曾識の学友に対して、此の事情を告げて、報告を煩した。然るところ、私の期待はやや成功して、文献よりは報告の方に、却って学問としての価値もあり、併せて実際の呪術や生活を知ることが出来た。而して茲に、当代の巫女とその呪術を記述するに際し、文献と報告との二つに区別して、筆を執ることとした。