「日本巫女史/第三篇/第三章/第一節」を編集中
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: 壱岐には、百合若説経を書いた書物が、尠くとも二本ある。一本は、イチジョウの話では、箱崎渚津の或る家にあると云うたが、諸吉南触(中山曰。地名)の松永熊雄氏の家の八十老翁は、八幡の馬場氏が持っていると言うた。今一本は、後藤正足氏の家にある本である。此方は借覧したが、イチジョウから聞きとった筋とは、幾分違うようである。 | : 壱岐には、百合若説経を書いた書物が、尠くとも二本ある。一本は、イチジョウの話では、箱崎渚津の或る家にあると云うたが、諸吉南触(中山曰。地名)の松永熊雄氏の家の八十老翁は、八幡の馬場氏が持っていると言うた。今一本は、後藤正足氏の家にある本である。此方は借覧したが、イチジョウから聞きとった筋とは、幾分違うようである。 | ||
: | : 此説経は、宇佐・宇須原両八幡の本地物である。<ruby><rb>万能</rb><rp>(</rp><rt>まんのう</rt><rp>)</rp></ruby>長者と朝日長者との、<ruby><rb>宝比</rb><rp>(</rp><rt>たからくら</rt><rp>)</rp></ruby>べの段から始まって、宝多くて子の無い万能長者は、貧窮で子十人も持った朝日長者に、「百の倉より子が宝」と負けてしまう。それから<u>申し子</u>の段になる。その次が<u>くらまんだん</u>(原註。鞍馬の段か)、<u>忍びの段</u>となって、王様のお姫様を盗んだ咎で、百合若は嶋流しになる。その後が<u>鬼攻め</u>の段で、<u>あくどこお</u>(原註。悪路王か)と云う鬼の目に、百合若の姿が見えないで、退治られると云う話。最後が末の段である。緑丸その他の件は、此の段に出て来るのである。トドの詰りは、百合若の妻たる王の姫は、豊後の宇佐八幡、百合若は宇須原八幡になるのである。外の段は遣る事も遣らぬ事もあるらしいが、「宝比べの段」は大事故、イチジョウのお勤めには、必ず唱える事になっている。説経の間は、例の竹で弓を叩いているのである云々〔三〕。 | ||
此の折口氏のノートによって、誰にでも知られるように、市子が唱えた古い説経の筋は、万能長者と朝日長者との交渉を語っていたものである。そして、百合若が嶋流しになる以下は、ユリセスの影響を受けたものであることが明確に認められる。即ち此の説経は、折口氏が言われたように本地物であって、古く巫女が歌謡者であったことを証示しているものである。 | 此の折口氏のノートによって、誰にでも知られるように、市子が唱えた古い説経の筋は、万能長者と朝日長者との交渉を語っていたものである。そして、百合若が嶋流しになる以下は、ユリセスの影響を受けたものであることが明確に認められる。即ち此の説経は、折口氏が言われたように本地物であって、古く巫女が歌謡者であったことを証示しているものである。 |